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最高裁判所第二小法廷 昭和30年(あ)2718号 判決 1957年12月13日

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人飯田武、同松本照義の弁護人土井美弘の上告趣意について。

所論は、談合罪における公正なる価格を害し又は不正の利益を受ける目的というのは予定価格の範囲乃至実費に適正な利潤を加えたものを超えるものでなければならないというのであるが、当裁判所判例(昭和二八年一二月一〇日第一小法廷判決・集七巻一二号二四一八頁、同三二年一月二二日第三小法廷判決・集一一巻一号二二頁、昭和二九年(あ)六六八号同三二年七月一九日第二小法廷判決)に照して理由がない。また所論は本件は特別法たる独占禁止法四条一項一号にいう業者が共同して対価を決定し、維持し又は引き上げることの禁止に触れるもので一般法たる談合罪を構成しないというのであるが、所論の独占禁止法の条文は一定の取引分野における競争に対する共同行為を取り締ろうとしたものであって本件のように所定の目的の下に各特定の取引について談合するものに適用されるべきものではない。その他の所論は事実誤認乃至訴訟法違反の主張である。

被告人中根鶴京の弁護人岡本薫一の上告趣意について。

所論は、大審院の判例と相反する判断をしたというのであるが挙示の判例中には談合は入札参加者全員によって行われなければならない旨の判示は存しないから判例違反の主張はその前提を欠くものである。そして談合は公務の執行を妨害する抽象的危険犯であることを本質とし、苟くもその危険のあるような談合である以上入札参加者の一部の者によって行われようと全部の者によって行われようと談合罪を構成するものといわねばならない。原判決には所論の違法はない。

被告人青木清一の弁護人志水熊治の上告趣意について。

所論は、被告人の自白だけで犯罪事実を認定した違法があって憲法三八条三項に反するといい、殊に被告人の支出した談合金の算出方法が被告人の検察官に対する自白の他に証拠がないというのである。しかし一審判決は右の談合の部分に関しては談合の相手方となった者の供述を証拠として掲げているのであって、談合金がどのように算出されたかというような主観面に関する事情は直接被告人の自白だけで認定しても何ら妨げないこと当裁判所累次の判例である。所論違憲の主張は前提を欠くものである。

所論は何れも刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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